ディストピア遊園地、手柄山遊園の思い出

 

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社会人になるとびっくりするくらい一日が過ぎるのが早い。酷く暑い毎日が終わったと思ったら、いつの間にか大晦日だ。去年まで学生だったと思うと感慨深い。

去年の今ごろは何してたのかな...、そうだ、あのよくわからない異空間、手柄山遊園にいたんだ。

 

 

きっかけはヒッチハイクと回転展望台

 

去年の年明け(正確には今年の1月ではあるけれど)、埼玉に住む友人がうっかりヒッチハイクで僕が住む神戸まで遊びに来た。せっかくなのでおもてなしタイムである。神戸の街を一通り案内した後、行ってみたいところがあるか尋ねると、「姫路に今年で閉鎖されてしまう面白い回転展望台があるから行きたい」と言う。

回転展望台!なんて素敵な響きだろうか!回転寿司に回転ベッドも然り、日本人は回るものに弱い。お代官様だって隙あらば帯を引いておねーさんを回したがるものだ。

ちょっと面白そうだったのもあって、すぐさま車を出せる友人を捕まえて、姫路へと向かう。良い女性を捕まえるのも大事だが、やはり持つべきものは車を出せる友人である。...自分の場合は女性に縁がないだけなんだけど。

 

 

空から見下ろす異空間

 

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いざ現地に着くと、なんともまぁ立派な展望台を前にテンションが上がる一同。詳細は省くが、とにかくもう好きな人にはたまらない場所だった。とくに年季の入りまくったエレベーターなんて照明がスイッチ式で、誤って電気を消してしまった僕らは興奮ポイントの渋滞で軽くパニックに襲われたくらいだ(というか今にも壊れそうなエレベーターに閉じ込められて電気が消えたらそりゃパニックにもなる)。凄まじかった。

 

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 当日の手柄ポートの様子。まるでLAの空港にある管制塔みたいだ。

 

さて、この展望台の上部は客席がドーナツ状の回転式喫茶店になっていて(神戸のポートタワーをイメージしていただくと分かりやすいと思う)、座りながらにして姫路市内をぐるりと一望できる。

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店内の様子。ミックスジュースにミートソーススパゲティを食べた。この手の店に来たら王道である。

 

僕らはこのノスタルジーな雰囲気と、昔ながらの喫茶メニューに舌鼓を打ち、姫路の街を見下ろす。3周目に入った時だった。友人が呟いた。

「あれ...?下の遊園地、年始でやってないだけかと思ってたけど、人...いるよな?もしかして稼働してる...?」

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一通り展望台を満喫して下に降りる一同。手柄ポートでの興奮と、真下に広がる謎空間への好奇心でワクワクが止まらない。歩いてすぐ行けるところに遊園地の門があることは上から確認済みだったので、嬉々としてそこへ向かうぼくら。気分はドラクエⅤ序盤の主人公だ。

 

やけにファンシーな昭和感のある門構えと、それとは対照的に不気味な周囲の様子。僕ら以外には人っ子ひとりいやしない。まるで廃墟だ。

 

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よく見るとどうやら正門ではないようで、表に回って入場して欲しい旨が書いてある...が、僕らの目に飛び込んできたのはそれよりもこのお知らせである。

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ひめじ手柄山遊園、一体何だったら遊べるんだ...

 

なんてことだ!遊園地王道遊具が全滅である!すべり台がなくなったら一体何で遊べば良いんだ!

児童公園から遊具が減っている、ということは知っていたけれど、その手が遊園地まで伸びていたなんて!世知辛い!

 

しかし、ここまで廃止されてなお開園しているのか...?

ますます興味が湧いてくる我々一同。

いよいよ好奇心が全て手柄山遊園に全振りされてしまっている僕らは一刻も早く、と焦る気持ちを前面に出して正面玄関へと急ぐ!

 

そして衝撃の光景が!

 

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入場料

4歳以上

100円!?!?

 

びっくりだ。正直入場料2000円とかだったらどうする?流石にここ入るのにそれはちょっと高いよねぇ、とか相談しあってたのが恥ずかしい。手柄山遊園は誰しもを受け入れる菩薩のような施設だったのだ。入り口で流れ続けるよくわからないアニソンのような曲が僕たちを包み込む。

さて、まずは入場券である。100円となればもう全員笑顔でゴーサインだ。受付にいるお姉さんに大人4人で、と声をかけると、彼女は驚いた顔で答える。

「え?えーっと、大人4人、ですよね?お子様は...?はぁ、いない。ちょっと待ってくださいね?あぁー、遊べるアトラクション4つくらいしかないですけど大丈夫...ですか?あ、でもお兄さんたち140cm以上あるんで3つですね。行きます?」

狼狽えるスタッフさんに、僕らは笑顔で100円ずつ取り出し、400円を支払い人数分のチケットを受け取る。

そして誰もいない入場ゲートを抜けた先には、

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もう大興奮だ!広い敷地とは裏腹に、屋上遊園地のようなノスタルジーな空間が眼前に広がっているではないか!

完全に止まった観覧車!何も走らないレール! そして水の抜かれた水上アトラクション!閑散とした空気!まるでディストピアのような世界が広がっていたのである!気持ち良い!

当時流行っていたけものフレンズという作品を彷彿とさせる雰囲気にやられる一同。僕ら以外には2、3組しかお客さんもいない。

(正確には手入れもされているようで、稼働しているアトラクションにはスタッフもしっかりと存在しているのだけれど。)

 

よくよく聞いてみると、夏場は市民プールとして稼働しているようで、真冬の閑散期、ましてやこんな年始早々に来る客はほぼいないため、このような風景が広がっているんだという。なるほど、それは納得。ならいっそ冬季は休園すればよいのでは、とも思ってしまうが。

 

では早速、僕たちが唯一遊んだアトラクションを紹介しよう。

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スリラー館である。

他のアトラクション(といっても水上カヌーとかそんなんしかない)はまだスタッフが暇そうに、切なそうに突っ立っているのだけど、ここだけは園内の端にあり、スタッフすらいない。明らかに空気感が違う。なんなら入場チケットもこのボックスに入れてネ!とかいう賽銭箱方式である。そしてなにより、

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もういろんな意味でギリギリだ。崖っぷちテーマパークだ。

館内は撮影禁止だっため(確か)、写真は残っていないのだが、男4人で入って普通に叫ぶくらいには怖かった。いや、正確には作り自体はチープなのだけど、この遊園地の廃墟感とスリラー館の不気味加減が良い塩梅に僕らの恐怖心を煽っていたのかもしれない。少なくともぼくは純粋に怖かった。

 

さて、スリラー館を無事脱出した我々一同。ここで問題が。

早くも遊ぶアトラクションがないのだ。水上アトラクションはいくつかあるが、この寒い中濡れるのはちょっと...、となるともう選択肢がない。もしこれがデートだとしたら即詰みである。というかこんな場所に付き合ってくれる彼女は絶対大事にしたほうが良い。

とはいえ、せっかくなので思う存分エンジョイしたい。パンダの背中に乗る我々。

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 時速2kmくらいの速度でのっそり動くアニマルたち。前進するときはやたらファンシーな音楽が鳴り響くのに、後退するときだけ軽トラのバック音(ぴー、ぴー、みたいな音)が流れてきて爆笑する我々。

 

さて、やることがなくなってしまった。あっという間だったけれど、なにか暖かい大事なものを得た気もする。少なくとも100円以上の興奮とスリルはあったはずだ。そろそろ僕らも現実に戻る時間。なんか年始早々すごいとこに来ちゃったね、と話しながら僕らは帰路に着いたのだった。

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今回のきっかけになった友人。スリラー館とパンダだけでこの表情である。

 

この記事を運良く見つけたあなた、年始は手柄山遊園まで足を伸ばしてみませんか。というか行ってください。なんか年始も入場料安くなるみたいですよ!