ビビりながら美大の卒展に行ってみた話
美術展に行くのって、なんだか緊張しませんか?
慣れてる人ならまだしも、 僕のように全く芸術作品に触れてこなかった小心者からすると、 結構ハードルが高い。なんとなく、 格付けチェックのように見る側の「格」 を問われているような気がして、純粋に楽しめないのだ。
興味がない訳ではない。興味はあるけど、 何も知らない自分が行って大丈夫だろうか、 という不安が先行してしまう。 僕の知らない観賞のルールがたくさんあって、うっかり破ってしまってそこらじゅうに潜んでいる私服警備マダム達につまみ出されたらどうしよう…
と思ってしまうのだ。
とはいえ 結論から言うと、
そんな僕でも、ビビりながら美大の卒業制作展に行ったところ、 めちゃくちゃ楽しかったのだ。
美術展はちょっと...という人にこそ、是非行ってみて欲しい。
気になるけどビビる
例えば、大手企業に勤めてます、って友人より、 知り合いに美大に通ってる奴がいるよ、 って言われる方が興奮する。いや興奮って。でもそれくらい、「 すげぇ」って気がするし、「住んでる世界が全く違う」 とすら思ってしまうのだ。
ちょっと高いイチゴは滅多に食べないけれど、 何となく親近感はある。でもドリアンはそうはいかない。 名前は知ってるけど未知。 癖があって果物の王様と呼ばれていることしか知らない。 なんなんだドリアンって。 日常でドリアンなんて食べる機会滅多にないだろう。 めちゃくちゃ興味はあるけど、いざ目の前に出されたらビビって手を出せない気もする。
つまり、僕の中で美大はドリアンなのだ。 興奮しすぎて例えを例え直してしまった。うっかり。
翌日は予定が空いていたし、 休日に遊びに出かけるのにはちょうど良い天気。絶好の機会だ。
でもなぁ、美大こわいなぁ、大丈夫かなぁ、どうしようかなぁ。 ビビりまくり。
そんなこんなでどうしようか悩みながら眠りについた。 寝付きが悪く、3回くらい夢を見た。 全部ウォシュレットの水流が強すぎてどうにかなる夢だった。 なんだそれ。僕の中の芸術欲が爆発してしまったのだろうか。 こんな夢を毎晩見るのはさすがにつらいし嫌だ。 こうしてもやもやして過ごすくらいなら行ったほうが良い!
そう決心して家を出た。
別の最寄駅から歩くルートもあったけれど、 大学前まで直行してくれるバスを選んだ。 道に迷って展示時間が終わってしまったらもったいない。 僕はしばしばそういうミスを犯しがちだ。
車内はおそらく美大に向かうであろう人たちで満員だった。 なんとなくの緊張感。自分は美大に入ってよい人間なのか、 吟味されてるようでドキドキする。 下車時にタッチしたSuicaが自分だけ反応しなかったら諦めて 帰ろうか、とか本気で悩んだが、 Suicaはしっかり反応してくれた。ありがとうSuica。
停留所を降りていざ武蔵野美大へ。
雰囲気も展覧会!というよりは落ち着いた学園祭のようで、 さっきまでの緊張感も和らぐ。
とりあえず、冒頭の作品が展示されているところを目指しつつ、 道中の展示を観てまわる。
作品は主に、①広場や通路といった屋外② 体育館やホールのような大きい会場③学舎内の教室 に展示されているようだった。
屋外の展示やホールの展示は僕が想像していた仰々しい感じ、 学舎内の展示は高校の学園祭に近い、割とフランクな感じの雰囲気。
この2つの雰囲気が混じり合う奇妙な感覚に戸惑う。
作品は学内の至る所に展示されていて、統一感があるようでない。 ある程度学科ごとに展示がまとまっているようだけど、 建築模型の隣に油絵が展示されてたり、 立体作品が置いてある横にアニメやゲームが展示されていたり… 。
いろんなものが入り乱れていて、結構混沌している。
中でも各教室内の展示がすごく面白かった。
学舎の中は、普通の大学というよりは高校の教室とか、 アパートに近い感じ。各部屋を訪れるたびに、 全く違う世界観が僕を襲う。
挙げ出したらキリがないくらいの圧倒的な情報量。 なんか初めて築地に行ったときの興奮を思い出した。 整然としてるようでごちゃごちゃしていて、圧倒される。
(圧倒されすぎて、ここらへんの写真を全然撮っていなかった。)
初めて見る世界だらけだけど、 どことなく親近感が湧く作品も多い。すごい。美術とか芸術って、 意外と身近な世界だったんだ。正直、 卒業制作と聞いてもっとお堅いものを想像していたのでびっくりだ 。
美大に飲まれていく
フェスと学園祭が同時に行われているような、 この奇妙な感覚に徐々に興奮しっぱなしだ。なんだこれ! もう理解なんて追いついていない。
各々が好きなこと、やりたいことを自由に表現し、 情熱で溢れている。すごい空間だ。美術展ではこうはいかないんじゃないか。 ある種のテーマが設定されているけど、 この空間ではその際限がない。あるのはあらゆる方面への情熱と、 処理しきれないほどの情報量。
そして徐々に、作品だけでなく美大そのものが楽しくなってくる。
そんなこんなでふらふらと日常的なアートに一喜一憂していると、 不意に目を奪われるようなでっかい絵画や立体物に遭遇したり。 もうぼくの情緒はキャパオーバーだ。
そんなこんなでホールで作品を眺めていると、 どでかいカンバスの前で製作者らしき女の子と、いかにもクリエイタ ーみたいな人が作品について語らっていた。
「どや、うちの工房で描いてみいひんか、ほれ(差し出す札束)」 「そんな、先生のアトリエを離れる訳には…!」 ヘッドハンティングだ。すごい。 こんなのって現実で見かけるとは思ってなかった。( 会話以降は全て僕の妄想である) 何が現実かもうよくわかっていない。
結局全然時間が足りなくて、なんとも言えない高揚感に包まれたまま大学をあとにした。 ふらふらだ。触りだけで完全に飲まれてしまった。 全体の5分の1も見れていなかったと思う。帰り際、 えらく格好良い赤ジャケットを羽織った警備員さん達が忙しそうに働 いていた。「はい、守衛室です」そう言って電話を取るおじさん。しまった、警備員じゃなくて守衛さんだったのか。もはや何がなんだかである。
ともかく、ビビりつつも行ってみた美大は楽しかった。そこは日常と非日常が入り交じる混沌とした世界だった。今年の展示は終わってしまったようだけど、少しでも興味を持った人は来年、是非行ってみて欲しい。初めて訪れるのなら間違いなく新たな発見があると思う。
来年はもっと時間にゆとりを持っていきたいところだ。ドリアンはお盆にでも食べようと思う。
余談。
帰り際、
ウォシュレット 夢